「ねぇ……。さっき、自分から言ったね」


美乃は俺の髪にそっと触れながら、クスクスと笑った。


「ん?」

「『俺の名前呼んで』って、自分で言ったよね?」

「言ったよ?」


俺はそっとキスをして、楽しそうに笑う彼女を見た。


「あんなに嫌がってたから、びっくりしちゃった」

「美乃は特別だからな」

「特別……? 私だけ?」

「ああ。今までに俺のことを名前で呼んだのは、親以外では美乃だけだよ」


美乃は嬉しそうに微笑んで、俺にギュッとしがみついた。


「これからは伊織って呼んでもいいの?」


顔を上げた彼女が、上目遣いで俺を見つめる。


「ああ、いいよ。でも、その顔は反則だって!」

「その顔って?」

「わからないならいいよ」


俺は美乃の頭を優しく撫でて、髪をクシャッとした。


「手、繋いでて……」

「ああ」


怖ず怖ずと手を差し出した彼女に、笑顔で頷く。
俺たちは指を絡ませ合い、お互いの手をギュッと握った。


「ずっと繋いでてね?」

「ああ」

「絶対だよ?」

「はいはい。でも、美乃の寝相が悪かったら無理かもよ?」


俺がニッと笑うと、美乃がいつもの膨れっ面をした。


「私は寝相いいもん!」


そっぽを向く彼女の背中に、そっと唇を落とす。


「美乃、拗ねるなよ」

「拗ねてないよ?」


美乃は優しい笑顔で振り向き、俺の唇にキスをした。


「ねぇ、明日も一緒にいてね?」

「ああ。なにしたい? どっか行くか?」

「ううん、ここにいたい」

「わかった。じゃあ、家でゆっくりしような。ほら、そろそろ寝ようぜ」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」


美乃の額にリップ音を立ててキスをすると、彼女はすぐに眠ってしまった――。