「麻雀かよ!」

「あっ、いっちゃん!」


麻雀なんて、美乃のイメージからは程遠い。


「麻雀なんてできるんだ?」

「入院生活が長いからねー。ポーカーもチェスも囲碁も将棋もできるよ」

「美乃ちゃんは強いよ! 麻雀以外でも手強いんだ!」


笑顔の美乃に続いて、その場にいた中年男性のうちのひとりが悔しそうに笑った。


「それより、いっちゃんまた来てくれたんだ。暇なんだね」

「うるせぇよ! だいたい、暇なんじゃなくて、今日は仕事が早く終わっただけだ」


憎まれ口を叩く美乃に言い返すと、彼女はその場にいた男性たちに病室に戻ると告げた。


病室に戻る間、いつものように『いっちゃん』と連呼する美乃に苦笑が漏れる。
俺は、伊織(いおり)という女みたいな自分の名前が嫌で、今まで誰にも呼ばせたことはなかった。


だけど、その名前を『可愛い』と言った美乃にせがまれ、散々押し問答をした末に仕方なく『いっちゃん』と呼ばれるはめになった。
『伊織』と呼ばれるよりはマシだとは言え、『いっちゃん』と呼ばれるのもなんとなく恥ずかしかった。


それを知った信二は、本気でゲラゲラと笑っていた。
その上、美乃の押しに負けてうなだれていた俺を見てさらにからかう信二に、本気で腹を立ててそうになった。