「観たい映画があるの」

「いいけど……。クリスマスだし、混んでるかもしれないぞ?」

「無理なら諦めるよ」

「わかった」


映画館に向かって車を走らせたけれど、予想通り映画館の周囲は渋滞していた。


「映画館も混んでるだろうな……」

「私が見て来るから、ちょっと待ってて」

「バカ、ひとりじゃダメだ!」

「大丈夫だよ! ちょっと確認してくるだけだから! ね?」

「……わかった。絶対に走ったりするなよ?」

「わかってます」


今にも車から飛び出してしまいそうな美乃の押しに負け、仕方なく彼女をひとりで行かせることにした。
映画館までは往復で三分も掛からないけれど、心配で気が気じゃない。


路駐して様子を見に行こうかと悩んでいると、美乃から連絡が来た。


『もしもし、いっちゃん?』

「どうした? なにかあったか?」

『ううん、大丈夫だよ! でもね、映画館はやっぱり混んでるの。今からそっちに戻るけど、お手洗いに行きたきから、もう少し時間が掛かりそうなんだ』

「ああ、わかった。俺が車でそっちまで行くから、トイレから出たら待ってろ」

『ううんっ! 平気だよっ‼ 入れ違いになると困るから、いっちゃんはさっきのところで待ってて! 絶対来なくていいからね!』

「えっ⁉ おい、美乃⁉」


彼女はどこか強引に押し切り、一方的に電話を切ってしまった。
俺は仕方なく、道路脇に停車させたまま待つことにした。


クリスマスだけあって、さすがにどこを見ても恋人たちばかり。
いつもなら気にも留めない風景なのに、今日は美乃とずっと一緒にいられるのだと思うと自然に笑みが零れた。


「お待たせ!」


電話を切ってから十分近く経った頃、ようやく彼女が戻ってきた――。