「わかった……。俺にできることならなんでもしてやるよ」


俺は優しく微笑み、美乃の言葉を受け入れた。
彼女の望みならなんでも叶えてあげたくて、ダメだなんて言えるはずがなかった。


「ありがとう……」

「なにをしてほしい?」

「あのね……無理かもしれないんだけど……」

「うん? 言ってみろよ」


美乃は息を小さく吐いたあとで、俺の目を真っ直ぐ見つめた。


「いっちゃんと一緒に暮らしたい……」

「えっ?」

「ダメ、かな……?」


不安そうな彼女に、すかさず首を横に振る。


「俺はダメじゃない! でも、許可が出ないだろ?」


一緒に暮らすなら、外出ではなく外泊許可がいる。
だけど、どう考えても、菊川先生が許すはずがない。


「お願い! 一回だけでもいいから! いっちゃんと一緒に暮らしたい……。普通の恋人みたいに過ごしたいの!」


必死に懇願する美乃を見つめながら、黙って考え込んでいた。
叶えてあげたいけれど、水族館や結婚式ですら許可をもらうのは難しかった。


それは、美乃の病状を考えれば当然のことだとわかっているからこそ、どうするべきか迷った。
程なくして、俺は息を吐いてから口を開いた。


「無理だよ、美乃……。外出と外泊じゃ意味が違う。俺にはそんな許可がもらえるとは思えない……」

「じゃあ、許可が貰えたらいいのね?」


美乃が俺を真っ直ぐ見つめ、はっきりとした口調で訊いた。


「……もらえないよ」


俺の意見は、たぶん正論だろう。
それでも、彼女は諦めなかった。


「そんなの……やってみなきゃわからないじゃない! 最初からそんなに簡単に諦めないでよ! 私、このまま死んだら絶対に後悔するもん……」

「……わかった」


根負けした俺は、ついに頷いてしまった――。