「頭、上げられるか?」

「うん……。ありがとう……」


美乃は小さな笑みを見せ、頭を少しだけ上げた。
氷枕を置くと、「気持ちいい……」と漏らして微笑んだ。


「寝ていいからな」

「うん……」

「なにかしてほしいことはあるか?」


微笑んだ俺に、彼女がそっと右手を差し出してくる。


「はいはい。美乃は本当に甘えん坊だな」


右手で美乃の手を握って、左手で彼女の髪を撫でる。
すると、穏やかな笑みを見せてくれた。


「いっちゃんがそうしてくれると、すごく落ち着くんだ……」


美乃はゆっくりと目を閉じながら、ホッとしたように呟いた。
握った手から伝わる体温は高く、呼吸も少し苦しそうだ。


そのせいか、なかなか寝付けないようだった。
時々、他愛のない話を振ってくる彼女に、相槌を打ったり言葉を返したりする。


三十分ほどして、美乃はようやく寝息を立て始めた。
彼女の寝顔を見つめながら、ずっと髪を撫でていた。


「大丈夫……。熱なんかすぐに下がる……。ウェディングドレスも、明後日になれば着られるんだもんな……」


その間、自分自身に言い聞かせるように何度もそう呟いた。
そうでもしなければ、不安に負けてしまいそうだったから……。


美乃が毎日のように熱を出すようになってから、確実に弱っていくのがわかる。
そして、最近は体調が安定することも気分がよさそうな日も、ほとんどない。


美乃を失う覚悟なんて、絶対にするつもりはないけれど……。目の前の彼女を見ていると、これが現実なんだと思い知らされてしまうようで、唇をギュッと噛み締めた――。