「な、なんだよ!」


なんとなく居心地が悪くなった俺に、信二と広瀬は顔を見合わせたかと思うと、ニヤニヤと意地の悪い笑みを見せた。


「染井ってキャラ変わったよね!」

「お前そんなんじゃなかったよな! いつでも冷静で、周りに合わせるタイプじゃなかったし?」


ふたりとも、きっと俺の気持ちを汲み取って、わざと明るく振る舞っているんだろう。
俺がずっと必死で考えていたことを知って、責めることができなかったんだ。


俺は眉を寄せながら微笑み、またビールを一気に飲み干した。
そのあとは、信二も広瀬も俺の仕事のことには触れずに、ただ他愛のない話をしていた。


だけど本当は、ふたりと話しながら、仕事を辞めたことをほんの少しだけ後悔していた。
優柔不断な自分に嫌気が差すのを感じながら、もう迷うわけにはいかないと自分自身に言い聞かせる。


この決意が固まった時のことと、親方の言葉を思い出す。
そして、改めて決意をした。


「ちょっと〜! あんた達も、もっと飲みなさいよ〜っ! バカー!」

「お前なぁ……」


叫びながらジョッキを振り回していた広瀬は、俺が言い終わるよりも先にテーブルに突っ伏してしまった。
相変わらず豪快な彼女に、唖然としてしまう。


「……学習能力ねぇな」


程なくして、素直な声が漏れた。
前回と同じ光景に呆れている俺と同じように、信二も苦笑している。


「本当にそう思うよ。でもいい女なんだ」

「知ってるよ。悪いけど、もうちょっとだけ付き合ってくれよ」

「ああ。今日だけは、朝まででも付き合うさ」


俺の言葉に頷いてくれた信二と焼酎を酌み交わし、家に帰った頃にはすっかり日付が変わっていた。