「私が言いたいこと、わかるわよね?」


居酒屋に着いてテーブルに案内されるなり、広瀬は俺を見ながら話を切り出した。
その声は明らかに怒っているけれど、はっきり言って彼女に怒られる理由はない。


ただ、これも心配してくれてのことだ。
広瀬の隣では信二が申し訳なさそうに笑いながらも、俺の言葉を待っているようだった。


俺はそんなふたりを見ながら、今日の親方とのやり取りと自分の気持ちを話し始めた。
ふたりは、ずっと黙って聞いていた。


「……だから、俺がそうしたかったんだ」


最後にそう言うと、程なくして広瀬が呆れたような笑みを浮かべ、信二はビールを一気に飲み干した。
俺も口を付けていなかったビールを飲み干し、ふたり分のビールを追加した。


広瀬もなにも言わずに、ビールを飲んでいる。
俺は沈黙に耐え切るために運ばれてきたビールを勢いよく飲み、ふたりからの言葉をじっと待っていた。


「なんかさ……なんて言えばいいのかわからないよ……。さっきまでは、『怒って反対してやる』って思ってたんだけどね……」


広瀬は呆れたように、俺を見つめて微笑んだ。


「ごめん、染井。お前が悪いんじゃないんだけど、さっきまでは俺も納得できなくてちょっと苛ついてたんだ……。今はそんな気持ちはなくなったけど、俺もなんて言っていいのかわからないな……」

「バーカ! 俺が勝手にそうしたんだっつーの! それなのに、なんでお前らがそんな顔するんだよ⁉」


わざとらしいくらいに明るい声で、必死に場を和ませようと試みる。
あえて「余計なお世話だって!」と悪態をついてから笑顔を見せると、信二と広瀬が同時に吹き出した。