『…恨みっこ無しだぜ?総司。』
永倉さんが口の端を僅かに持ち上げる。
『其の言葉、そっくり其の儘お返しするよ。』
沖田さんも、不敵な笑顔を浮かべて永倉さんを見据える。
---…1秒が、とても長い。
木刀を構えてから、お互い一歩も動こうとしない。
時折冬の冷たい風が吹き抜けるも、動じる事無く睨み合う。
ザッ!!
風が吹き抜けたと同時に、不意に地面を蹴る音がした。
永倉さんが、沖田さんよりも先に一歩を踏み出したのだ。
ガツッ…
強い力がぶつかり合う音が響く。
『…今日は気合いが違うみたいだね。』
『あったりめェよ…。』
勢い良く突っ込んでいったものの、永倉さんの放った一撃は沖田さんに当たる事無く横に受け流される。
『チッ…やっぱり一筋縄ではいかねェか。』
体勢を立て直し、再度永倉さんが沖田さんへ向かおうとしたその時---
…ザッ!
地面を踏み出すと同時に、沖田さんの木刀が永倉さんの右肩へと届いた。
一瞬の出来事に、全員言葉を失う。
肩を突かれた永倉さん自身も、沖田さんのあまりの素早さに目を丸くしている。
『いっ…でェェェ!!!』
数秒後、境内に永倉さんの叫び声が響いた。
『…勝負、あったね。』
沖田さんが永倉さんを見下ろして、満足気に微笑む。
『お前っ…稽古で三段突きする奴が何処に居るっ!』
右肩を左手で押さえながら、永倉さんが不満げに顔を顰めた。
『此処に居るよ。…大体、稽古でやらないで何時練習するのさ。』
三段突き…
…確か、一歩踏み出す間に三回突きを繰り出す技だった気がする。
沖田さんはあんな短い時間で、原田さんに三段突きを繰り出していたのだ。
『…総司は、天才だよ。』
直ぐ隣で見ていた藤堂さんが、私にぼそっと呟いた。
『アイツは、誰が見ても天才剣士。…此処だけの話、総司に憧れてる奴は多いんだぜ?』

