玄関に着くと、平然と立つ山崎さんの隣で息を切らし胸元に手を添える藍さんの姿があった。



しかし−…


其処に、沖田さんの姿は無い。

『…何か、あったんですか?』

無性に不安に駆られ、震えそうになる声を何とか抑えて山崎さんに問い掛けた。


『…沖田さん自ら、喧嘩を吹っ掛けに行きました。』


あくまで淡々と報告する山崎さん。視線は私を越え、何時の間にか後方に立っていた土方さんへと向けられていた。

『…相手は。』


『攘夷派の不逞浪士かと。…沖田さんとは面識があるようで、顔を合わせた瞬間相手は逃げ腰になってましたね。』


山崎さんの言葉に、土方さんは眉を寄せた。

『…さっきの奴等の残党かもしれないな。』



−−−私達を襲った、尊王攘夷派の不逞浪士集団。


先程の光景が脳裏を掠めた。



『…人数は。』


『私が確認しただけで三名です。』



土方さんは溜め息を吐いた。


『…まだ暴れ足りない様子だな、アイツ。』



沖田さんの性格上、自分の敵は何が何でも根絶やしにしないと気が済まないのだろう。

だけど…



三人を相手にするなんて、無謀過ぎる。



『あの…』


不意に藍さんが顔を上げた。


『私のせいで…御免なさい。』


か細い声で、そう告げた。

---藍さんのせいじゃない。

そう言おうと口を開きかけた時---


『…何が君のせいなの?』



聴き慣れた声が、藍さん達の背後から聞こえた。



『沖田、さん…』


姿を現したのは、着物の前をうっすら斑模様に血で染めた、沖田さんだった。


『いやー…無様にも返り血浴びちまいました。ほんの少しですけど、これくらいなら洗えば落ちますかねー。』


いつもの飄々とした態度の侭の沖田さん。


しかし−−−


土方さんの表情は、堅い。


『……総司。』


『分かってますって。ちゃんと着替えてから、話聞きに行きますんで。』


土方さんの言葉を遮る様に、沖田さんは言葉を繋げた。


『土方さん。…まだやれますよ、俺。』