「行ってらっしゃい♪」


「行ってきます」



ふー‥



ガチャ──



俺は、車に乗り込むと携帯を開き悪友の涼に電話をかけた。



『もしもし‥』



心なしかいつもより声が低い涼。



「もしかして寝てた?」


『‥‥うん‥
ふぁ〜ぁ‥。モーニングコールありがとう』



こいつのテンションが低いとなんか、調子狂うな‥



「俺さ、今日仕事午前中で終わりなんだけど、お前午後何かある?」



運転しながらの電話は違反だってわかってるけど‥



『いや、今日オフ』



運転テクニックが天才的な俺様には関係ねーな‥



「じゃあいつもの場所で」



涼と会う約束をしてから、俺は電話を切った。


────
  ────


「お疲れさまでした」



いつも通り、監督とスタッフのみなさんに王子スマイルで挨拶した俺は楽屋に戻って帰り支度をした。



「蕾斗くん、おつかれ〜」


「おう」


「この間のファンミも最高だったよ」



ファンミ(=ファンミーティング)は俺のファンクラブに入っている子を集めてする、まぁ簡単に言えばライブだ。



「ほんと、蕾斗くんは姫ちゃんの事しか考えてないからね‥」


「当然。俺にはあいつが命だし」



少し冗談っぽく言ってみたが、結構本気だったりする。



「あれから、姫ちゃんの嫌がらせはやんだ?」


「あぁ、俺の知る限りではな‥」



石川のいう“あれから”というのは“ファンミから”という意味だろう。



それから、石川と軽く話すと用事がある、とことわってからその場を後にした。