「蒸……好きだから」



俯いて、山崎さんの……蒸の見えない両腕に両手を重ねて言う。


敬語を使いたかったけれど、恥ずかしさからか、つい普通に言ってしまった……



『俺も、織が好きや。忘れるんやないで』


「忘れられるわけないじゃないですか……」


『俺もや』



振り向きたいのに、蒸は振り向かせてはくれない。


振り向いたら、きっとこの幸せな時間は奪われてしまうんだろう。



一年ぶりに会えたのに。

せっかくの機会なのに。



「……顔、見ちゃだめですか?」



つい我慢できずに、欲が言葉となって口から出てしまった。


でもそれこそ本心!



そしてこれが、最後の願い……



観念したのか、蒸は私の体をくるりと反転させ、向かい合う形になった。


え、嘘……

蒸の体が実体化してる……



「すす……っ」



下から上へと視線を移していくうちに、無理矢理顔を上げられ、唇に温かいものが当たる。


暫くの間、蒸の唇と重なり続ける。

その間、思わず涙が零れ、無数の雫が頬を伝って落ちていった。


先に唇を離したのは、泣く私を静かに見つめる蒸だった。