「山崎さん……?」





後ろからあの人に……山崎さんに強く抱き締められているような。


顔が見たくて、すぐに後ろを振り向きたくなって、体を動かそうとした。


でもそれを阻止したのは、山崎さんの両腕だった。



『やめや。あんたが後ろ向いた途端に俺は消えるんやからな……たぶんやけど』



懐かしい声が耳元で響く。


そんな台詞を言われたから、すぐ目線を下に落とした。


山崎さんの腕、実体はない。


きっと幽霊か透明人間なんだろうな。

いや、確実に幽霊なんだろうけれど。


誰へのものなのか、私はふっと鼻で軽く笑った。



「それにしても山崎さん。まだ“あんた”なんて呼ぶんですか?それ、嫌いです」


『あんた以外に、何て呼べばええんか分からん……』


「名字とか名前とか、あるじゃないですか」



未だに“あんた”と呼ばれて、気持ちがいいわけがない。

お互いの気持ちは同じはずなのに……


そういえば、私が“山崎さん”って呼ぶのはどう思われているんだろう。

でも年上だし……