理由があるから呼んだんだよ?

簡単には言えない一言が理由なんだけれど。

彼の胸辺りに顔を埋めて、今できる照れ隠しをした。


「―山崎さんのこと、好きだから。ただそれだけなんです……」


ただそれだけとは言い切れないかもしれない。

でも、気持ちを伝えられただけでも良かった。

涙は出ない。悔いなんて、ないから。


「俺の邪念をどうにかしてほしいんや。せやけど、今の俺は邪念に動かされてるんやな…」

「山っ……ん……」


無理矢理顔を上げさせられて、私の唇を彼は奪っていった。


柔らかい確かな感触が、長い時をも止める。


小路は暗くて、表情なんて見えないけれど、少し安心した。
たとえ邪念であったとしても、私と山崎さんの心は繋がったのだから。

これが最後だとしても。
この一瞬が、凄く幸せだから。
また涙が一滴、零れ落ちた。


暫くして、私の唇は解放された。
でも、まだ体は抱きしめられたままで、解放されていない。