着いたその先は、亜利哀のお父さんの会社のひとつなのか、大きいホテルだった。 「…早く行かないと、飢えた蛇に喰われるわよ?」 囁かれた亜利哀の声は、甘いけど辛(カラ)い。 「あ…うん。」 本当に逃げてしまった。 後戻りは、出来ない。 「亜利哀、茨は?」 「雨水はあたしと茨が同棲してるとでも思っているの?」 前を歩く亜利哀からは、クスクスと笑い声が聞こえた。 裏口から入ったみたいだけど、深夜だからか人の気配が全くない。 高級そうなカーペットの上を歩いていても、足音が微かに聞こえる。