お父さんも綺麗な人だったけど、お母さんもなんだろうな…。
九条さんは私に気づいてベンチを空けてくれた。
「ありがとう。」
「…海があんたを好きな理由。分かるわ、やっぱり。」
急に何か、とギョッと九条さんを見る。
「あたしもあんたの事、気に入ってたけどね。」
「何のこと?」
勝手に1人で話を解釈していく九条さんに話しかける。
「…あんたといると、忘れがちなもんを思い出すんだよね。」
“忘れがちなもの”?
本を置いて、私の方を見た。
「…えと…もう少し分かりやすい言葉で…。」
「例えばね。感謝の気持ちとか。」
少し風が吹く。
潮の香りがした。



