朝早く…といっても、もう8時。
九条さんの髪を梳きながら、京は文庫本を読んでいた。
私は静かに近づいて、九条さんを見ると目を瞑ってぐっすり眠りこんでいるようだった。
きっと明け方まで繁華街の見回り?をやっていたんだと思う。
「…京が。」
「うん?」
「京が、九条さんが“狐狼”って呼ばれたくない理由って何?」
九条さんは耳が良いから。
起きないくらいに、私は小声で聞いた。
「…馬鹿にしてるみたいでムカつくから。」
馬鹿に?
聞く前に、京は溜め息と一緒に吐き出した。
「頭が良い。喧嘩が強い。見目もそこそこ。プラスアルファー、親の職業もある。恵まれて生きてきた、って思われんだよ。
親の職業や見目は兎も角、頭や喧嘩は自分の努力だろ?
なのに、それを嫉妬の目で見る奴には何にも努力しないでノウノウと生きてる奴に見えるらしい。
それにすげー腹立つ。」
せき止められていたダムの水が流れ出したように京の言葉は長い。



