「九条さんのお父さんって…。」

その後3日ぶりに九条さんが屋上にいたので、話しかけてみた。

何気なく。

「…椎名に聞いた?」

私が言葉を続ける前に、九条さんは棘のある声で言った。

今は京がいない。

ワンクッションないこの状況。

人の心に土足で入ってはいけない…でも、やっぱり私は知りたいと思う。

…何も知らなかったから。

慎重に。

でも、九条さんが言いたくないって言えば聞かない。

「聞いてないよ。九条さんに…九条さんから教えてもらいたかった。」

パンを持った九条さんは私を見ている。

この黒い髪の毛…。

あの男の人は、きっと九条さんのお父さん。

「あの、別に。嫌だったら、言わなくても…」

「会ったんでしょ、あの人と。」

見透かしたような。

海の言葉は、いつも真っ直ぐで。

九条さんの言葉は、いつも何かを知っているように、斜めから感じる。