案の定、九条さんに対して暴言を吐いた髪を染めた男子は吹っ飛んだ。

それは、九条さんによってではなく。

九条さんの後ろ、つまり廊下にいた京が反対の扉から出てきて、その男子を殴ったから。

急な事だからか、女子からは小さな悲鳴があがった。

私は、悲鳴をあげる前に九条さんが動くとばかり思っていたから、九条さんに近寄っていた。

近くにいる九条は、冷たい瞳でそっちを見ている。

京も京で、一発殴ったらジッと険しい顔で男子を見ていた。

ピリピリとした空気。

私は動く事が出来ずに、足が地についたまま。

殴られた男子はピクリとも動かなくて、クラスメートはそれを助けようとしない。

その男子、死んでしまったんじゃない!?

内心、焦る私とは反対に、

「…京。」

九条さんの声は、落ち着いていた。