MEMORIAL ADRESS

公演会場には人がごった返しの状態だったが、何とか一番前の席を取った。

何度も何度も周りを見渡して先刻の男を探すが見当たらない。

自分がその人を探していることすら不思議だった。

急に証明が落ちる。

ステージから聞こえた大音量に、言葉を失い…そのステージに立っていた人に目を奪われた。






彼だった。






先刻の男は、ステージに立って和太鼓を打ち鳴らしていた。






そして見えたのは、彼の右腕に色鮮やかに彫られた白虎。

太鼓の音に、彼の勢いのある動きに、右腕の白虎に心が震えた。







彼は…更正中の人間だった。

沙羅と同じアウトロー…

1分、2分…

時間が過ぎて行く度に、胸の高鳴りは激しくなった。

彼と目が合う度に、血液が逆流していく。

そして、涙を零した。

何年振りかに…沙羅は泣いた。

流れ落ちてくる涙を拭う事なく、ただ涙をこぼしながら舞台上の彼を見つめていた。

右腕がしなれば、白虎が嘶く。

それに反応するように、沙羅の両腕の昇り竜が嘶き返していた。