いつだって携帯を肌身離さず持ち歩いて、ロックを掛けていたこと。
裕の部屋や車の中に、自分の物じゃないアクセサリーが落ちていたこと。
違う女の子とあたしの名前を間違えたこと。
裕に女の影があるのに薄々気付いていたのに。
それなのに、あたしは見て見ぬふりをした。
裕と別れたくないから。
裕に嫌われたくないから。
あたしは心の底から裕だけを愛していた。
だから、多少のことには目をつぶってきたし、逆に裕を疑っている自分を責めたりもした。
一緒にいるために我慢して。
我慢する度に自分が自分じゃなくなっているようで。
『別れよう』
裕からそう告げられた時、本当に悲しかった。
辛かった、苦しかった。
でも、ほんのちょっぴりホッとしている自分もいた。
それなのに、あたしは裕を忘れられなかった。
一緒に聞いていた曲が街中で流れると、胸が締め付けられて。
裕と同じ香水をつけている男の人が横を通り過ぎると、自然とその人を目で追っていて。
裕からもう連絡はこない。
分かっているのに、頻繁に携帯をチェックしていて。
別れてからずっと、裕と過ごした幸せな出来事ばかり思い出して胸が苦しくなった。



