いきなり飛び出した私の名前と本社のフレーズは、平常心を失わせるには十分で。



ううん…修平の一連の様子から、もっと早くに気づくべきだったのに…――



「また、はぐらかすつもりか?」


一段とピリリとスパイスを利かせた彼の口調に、通話相手はどうなんだろう…?



大神チーフの仕事に対する、真摯なまでに完璧さを求める所を尊敬していて。



ソレは本心だし、フランクな人柄も嫌いというカテゴリーには入っていない。



けれども、今の私にとっては“聞きたく無い名前ナンバーワン”みたい…――



ダークグレイの瞳と交わるのも気まずく感じて、無機質な地面へと視線を落とせば。



掴まれていた腕の力の力が弱まってすぐ、指先を大きな手でキュッと絡み取られて。



自然とその感触を辿るように、私は顔を徐々に上方へと向けて彼を見上げた…。




「俺の処遇云々について、どうして真帆に見解を求めた?」


「っ・・・」


ストレートな発言に動揺して、思わず彼の手をギュッと握り返してしまった。



何よりも私から伝える前だったのに…、初めから全てを解っていたのね…?



絡まった視線を外す事が出来ずにいれば、フッと一笑して表情を緩ませた修平。



「どのみち来月は全体会議があるし、ソッチに呼ばれていたよな?

詳しい話については、直接サシで話すのがベストだと思うが――

ただ…昔オマエに言った事は変わらない、今後も貫き通すつもりだ。

あぁ…、Time is moneyだろ? 俺の方も“優先事項”があるからな…」


繋がれた手を決して離すまいとする彼は、まるで不安な私の心情を宥めるようだ。



先ほどよりもマイルドな物言いで、手短に大神チーフとの電話を終えてしまった。