王妃の声に顔を上げれば、先ほどまで王妃が座っていた椅子の肘掛の上に浮かぶように出現した半透明のパネルに映る人影が見えた。

城の入り口前に佇む、細身の若い男。

長い髪をゆるくまとめた身なりの良い青年は、一度此方を仰ぐように見上げ、宮殿へと続く花のアーチへと歩を進める。

その姿を見てそれが誰かをラファエルはすぐに認識した。

「クロード皇子……」

コーエンによって取り付けられたセンサーによって、来訪者があると自動的に起動するパネルに映し出されたのはエルカイザの第二皇子。

現在はエルカイザ王室お抱えの特殊部隊ケルベロスの隊長を務めている。

多忙な身にもかかわらず、僅かな時間の合間を縫っては、時折こうして宮殿へ訪れる。

病床に伏せる父王への面会を求めて――

「熱心なことね。けれどその行動の裏にはどんな本心を隠しているものやら……ラファエル」

名を呼ばれてパネルから視線を移すと僅かに眉根を寄せた王妃と視線が合う。

ラファエルへと向けられた白い手が促すままに、立ち上がる。

「いつものように丁重にお断りしてちょうだいな」