「大丈夫です」

ゆったりと歌うような声でラファエルに語りかけた王妃ディーヴァはすぐにクルリと向きを変え、椅子の背後に見える厚いカーテンの覆われたベッドの方へと歩を進める。

王が眠るそのベッドの側まで行き、ラファエルに背を向けたまま

「念のために近くにいたミカエルにリディルへ向かうよう指示をだしました。じき、報告も入るでしょう。間違いはありません……いえ、あってはならないのです」

そう、最期は強い口調でつぶやく王妃の声にハッとしてラファエルは顔を上げた。

「王がご回復するまでは何としても私がこの国を守ってみせます。ですから貴女も気を強く持って私を支えるのです。良いですね、ラファエル」

細く儚げなその後姿に滲む強い決意のようなものを見て、ラファエルは深く頭を垂れる。

「はい。王妃様」

なんて強い方。そして、健気な方なのだろう。

まだ少女の面影さえ感じるほどに華奢で美しい王妃。だが、聡明で気高く強いその精神力。

この方がいるからこそ、王が病床に臥せっているにもかかわらず、この国はディラハンから征服されることなく互角に渡りあえている。

この方の為になら、どれだけその身を削ろうとも惜しくはないとラファエルは思っている。

ましてや、そうするだけの力をラファエルに与えてくれたのも、その王妃自身なのだから。

「頼りにしていますよ」

ラファエルの返事を聞いて振り返り、そう言って微笑んだ王妃が、ふと小さく首を傾げた。

「あら、誰かしらね……お客様が見えたようね」