商売をしているとはいえ、こんな時勢に女手一人で自分が生きていくだけでも大変だろうに……
それでもアナベルの決意は強く。
見も知らぬ他人の子供を、生まれて間もなかったレイを、アナベルは王立孤児院から引き取った。
子育てなんてしたこともないはずなのに、アナベルは一生懸命レイの世話をし、やがて言葉を覚えたレイは……躊躇うことなくアナベルを『ママ』と呼んだ。
レイはアナベルを母親と信じきっている。
それほどに確かな絆。
五年の歳月の間に、アナベルとレイは本当の親子になった。
そばで気に掛け、見守ってきたアレックスはそれを見て、知らなかったものをまたひとつ手に入れた。
アレックスは持たない。
アレックスは知らない。
だけど、ほんの少しだけ。その空気に触れることは今は許されている。
それだけでも、『人』に近づいた気がする。

