シルバの後姿を見送った後、ルシフェルは彼に言われた通り池へと歩き出す。

森の木々は盛大に枝を伸ばし、茂った葉が天井のように頭上を覆う。

その密度ゆえに天上の月の光さえ森の中へは届かない。

頼るべき光もない闇に覆われ、生きているものなどないかのように重い静寂が支配する世界を更に奥へと進む。

しばらく進むと、突然視界が開け、円形の夜空が現れる。

その眼下には、静かに月明かりを映す水面。

小さなその池にそっと手を差し入れると、波紋がきらきらと光を反射させながら広がる。

脱いだ外套を洗ってから、手についた泥を落とそうと、腕まで水につけこする。

本来はとても冷たいであろう、地底から湧きあがる水。

だがその感覚をルシフェルが感じることはない。

機械化されたその手を覆うのは精巧な人工皮膚。

どんな原理かはわからないが、切り裂いても僅かな時間で再び元の状態へと再生してしまうようなシロモノ。