「また……行って来たのかい?」

ルシフェルの外套の裾と、その手に付着した泥を目にしてシルバはおだやかな表情で口を開いた。

「やはり……人間の世界が恋しいかい?」

そう問われたルシフェルの顔から先ほどみせた微笑が消える。

「……シルバ……そのことなんだが……話がある」

言いにくそうに目を逸らし、泥が付着したままの細い拳をきゅっと握り締めるルシフェル。

シルバはそんなルシフェルの様子にも穏やかな表情を崩すことなく

「そう……でもまずは池で身体を洗ってくるといい。すっかり泥だらけじゃないか」

そう言って、優しくルシフェルの背をトンと叩くと

「温かい物を用意して待ってるよ……今夜は少しばかり涼しすぎるようだからね」

そう言い残し、出てきた藪のほうへと踵を返して、その姿はその奥に広がる闇へとすぐにまぎれ見えなくなった。