――ザザッ





不意に、人影の前の藪が音を立て、そこから大きな影が飛び出してきた。

銀色の毛並みの美しいそれは、しなやかな動きで人影の前に踊り出て、四肢で地に降り立った。

赤い髪の人物は目の前に現れた銀色の狼を見おろし、青い瞳を細め、微笑んだ。

「ただいま。シルバ」

発せられたのは、変声期の少年のようにややかすれているが、少女独特の響きを持つ声。

名を呼ばれると同時に、銀の狼はみるみるその姿を変えだした。

ほどなくして、一つだった人影の前に……それより頭二つ分ほど高いもう一つの人影となった。

「おかえり。ルシフェル」

狼の時と変わらぬ美しい銀のきらめきをまとった髪の背の高い青年。

紫色の切れ長の目がそう思わせるのか冷たい印象を覚える、だが整った顔立ち。

人並み外れた……

それも当然だろう。彼はついさっきまでは狼だったのだから。

そう、彼は……





人ならざるモノ。