手の平いっぱいに盛られたキャンディーに、嬉しそうな表情を顔一杯に広げて
「わ……あのっ、いいんですか? こんな……」
少女が礼をいいながら顔を上げると。
先ほどまで目の前にいた、長い黒髪の青年はすでに姿を消していた。
「え……? あれれ?」
思わず周りを見渡すものの、ひとつの人影すら見当たらない。
手の平のキャンディーを落とさないように捧げるように持ちながら、すぐ先の曲がり角まで追ってみるが、その先にも誰の姿も見当たらない。
「名前……聞きそびれちゃった……」
やや茫然とした表情を浮かべ、何度も頭をひねりながら店へと引き返す少女を、ジュードはすぐ脇の建物の屋上から見下ろす。
少女が店内に入り、ドアを閉めるまで。
その隙間から覗く白い花を名残惜しく目で追う。
――カラン
ベルの音と共に閉ざされたドア。
灯りが消えるのを確かめて、ジュードは深く、長く、息を吐いた。

