今思えば
むごいことをした――
「君、名前は?」
「……ジュード。ジュード・ヴァレンタイン」
不思議と、名前はすらすらと思い出せたから。そのまま口にする。
「素敵な名前ね、どこか由緒あるところの方ではないの?」
「いや……よく、思い出せない」
「もしかして君は記憶を無くしたのかい? まあ……海から上がってきたのなら無理もない……きっとこの災害で遭難にあうなどしたのだろうから……かわいそうに」
夫婦は心底気の毒そうな表情を見せ
「しばらくは僕らと一緒にいるといい。かろうじて少しばかりの食料もあるし、この陸地はわりと緑豊かだから頑張ればなんとかやっていけそうだし……」
気のよさそうな男の申し出。
ずっとだまってにこにこと笑顔を向けている子供と、女。
小さな洞窟に身を寄せていた家族は、見ず知らずの自分に最大限の優しさを示してくれたというのに……

