はるか頭上に、僅かに煌く光に吸い寄せられるようにそれを目差し、水面の上に顔を出す。
真っ暗な世界。そのはるか天空に真円を描く控えめな光を湛えた月。
その光に照らされ、何処までも続く黒い水面の彼方に、闇夜と水面の境界を区切るかのように一際黒い影が目に映る。
感覚を研ぎ澄ませあたり一面を見渡しても、意識で遠くを探っても、それ以外の影を見つけることはない。
水に覆われた世界に、浮かぶ。
たったひとつの陸地。
胸の傷はもう塞がっていた。身体中に力はみなぎっている。
とりあえずそこを目差す。
頭はまだぼんやりとしていたが、とりあえず自分が水の中に生きるものではないことくらいは分かる。
まとわりつく水は鬱陶しく、ここは居心地が悪い。

