かわいい彼女というわけではないが、たった今自分のベッドを占領して眠りについている存在を思い出し、ジュードは少し思案して
「一瓶もらおうか」
そういってコートの懐に手を差し入れ、ポケットから数枚の札を取り出し老婆へ差し出した。
「足りるか?」
「もちろんですとも!! ありがとうございます……今お釣りを……」
まさか、まるまる一瓶も買ってくれる客がいるとは思わなかったのだろう。
飛び上がるように喜んで老婆は礼を述べ、腰にくくりつけた皮袋に手をつっこんだが……
チャリ――
皮袋の中で聞こえた硬貨が擦れる音はとても軽く、老婆の顔がたちまち曇る。
「気にするな、釣りはいらん」
ジュードはそう言うと、老婆の足元の瓶を一つ取り
「もらってくぞ」
小脇に抱え、再び歩き出した。
老婆は一瞬何がおこったか分からずきょとんとしていたが、すぐに頭が地面につきそうなほど、只でさえ曲がってる腰を更に深くまげて
「あっ、ありがとうございます」
何度も何度も礼を述べた。
その声を背に、ジュードはどこへゆくとでもなくただ足を前へ進めながら、口元に自嘲じみた笑みを浮かべる。
(人間を殺して得た金だというのに……)

