微かな香りに鼻孔をくすぐられ目を開けると、ベッド脇に置かれたテーブルの上にある小さな花鉢が目に入った。

小さな、淡いブルーに色づいた花びら。

そして花鉢の向こう側……細い肩を流れ落ちる金糸の髪。

「あ、起きた」

その声を聞き、伸ばしかけた手を下ろして顔を上げる。

「……なんだ、お前か」

「なんだって何よ」

閉めていたカーテンを開け放ち、窓際に腰掛けた少女は不満そうな声をあげ、頬をふくらませて見せる。

そんな表情はいたって普通の少女とかわらない。

だが……

「こんなところで何してる。子供はもう寝てる時間だぞ、ミカエル」

「あら、こう見えてももう成人してるのよ。もう立派な大人なんだから」

窓のむこうを覆う漆黒の闇に目をやりながら皮肉まじりに投げた言葉に、ミカエルは腰掛けていた窓辺から床へ降り立つ。

ゴト……

軽やかなその外見と似合わぬ重い音が、ミカエルのブーツが床につくと同時に響いた。