涙に濡れたアナベルの顔を見て、先ほどからある感覚をそのまま伝えたいと、思った。
「泣かないでください。
彼は自分がいつか死を迎えて誰かが泣くことを恐れてた。
それに、あなたのそんな顔を見て、彼のことを考えて……」
手紙をカウンターに置き、感覚が疼くその場所に手を当て、アレックスは言った。
「……さっきから……何だか痛むんです。ここが」
アレックスの言葉に誘われるように、アレックスが自らの胸にあてた手へと視線を移したアナベルは一度だけ、濡れたまつげをまばたかせ……
そして。
「そう」と小さくつぶやきながら微笑を浮かべた。
頬に残る涙を拭ったアナベルの手で、空になったアレックスのグラスが再び琥珀色に満たされていく。
「もう一杯おごらせてね、アレックス」
元の強い光を瞳に宿し、微笑をそのままにアナベルはグラスを差し出し……言った。
「それを『悲しい』って言うのよ」

