間違いない。
先ほど泣いていた女……弔い客のひとりだと思っていた。
「違うの……?」
目の下を赤く腫らしてはいたが、もう涙はない。
目深にかぶった黒いショールの下から強い光を持つ薄茶色の瞳を真っ直ぐ投げかけてくる……
アレックスよりやや年上に見える女性は、無言のままのアレックスに再度問い掛ける。
「ああ、すみません」
人がいることにすら気付かなかった自分自身と、見ず知らずの女が自分の名を知っていることに戸惑い、反応が遅れた。
短く謝罪し
「何故、名前を?」
問い返す。
女はさっと周囲をうかがうように視線を走らせ、誰も居ないことを確認してからかぶっていたショールをするりと解いた。

