足早に墓地を出て曲がった矢先に。



「アレックス・レンフィールド?」



かすれた細い声を耳にして、足を止めた。

墓地を囲むように並び立つ木々の、たった今通り過ぎたばかりのその一本の影に、木に身を隠すように人がいることに気が付き、振り返る。

常に気を張り詰めて、人の気配に敏感なアレックスが……通り過ぎて尚、声をかけられるまでその気配に気付かなかったことはいつもでは考えられないことだった。

しかも

「……黒髪……青い目……あなた、アレックス・レンフィールドでしょう?」

確認するかのようにつぶやき、問い掛けてきたのは

「……?」

先ほど墓地へ行く途中ですれ違った女だとすぐに気が付いた。

目元をハンカチで覆っていたから顔は見ていなかったが、その手に握り締めたハンカチと黒い服は、ついさっき見たモノと全く同じものだ。

普段から、見たモノの特徴を捉えて記憶する癖がついているため何気なく見たモノもしっかりと記憶されている。