白い石版に刻まれた名前を見ても。
その前に手向けられた沢山の花を見ても。
「…………」
無言で一人墓石の前にたたずみ、アレックスは少しだけ首を傾けた。
事実だと理解はしても、何故か受け入れることが出来ない。
刻まれたばかりで、はっきりと鋭利な輪郭を持つその名前を見れば見るほど……
交わした言葉が。
自分に向けられた彼の表情が鮮明に思い出される。
刻まれた文字をそっと指でなぞる。
初めて会ったときは苦虫をかみつぶしたような顔で見ていた。
初めて任務を共にしたときは厳しい言葉を投げつけられた。
そういえば、あの時は拳も喰らった。
だけど……その拳が、アレックスを引き止めた。
曖昧な『人』という境界線で揺らいでいるのに気付いてくれた。

