どこまでも無表情に……握る槍の柄を地から引き抜いた少女が、再びそれを振りかざそうとした時。
「かわいそうに……」
かすれたボルグの声に、少女の瞼が一瞬ピクリとまばたきを見せた。
一気に身体を起こしながら手にしていた短剣を横になぎ払う。
足を狙った一閃は難なくかわされ、ほんの少しの間合いを取り後方へ降り立った少女は、槍を構え直し……だが、ボルグが起き上がるのを動かず眺めている。
「……ハア……ハッ……」
先ほど右脇をかすめた一撃は、思いのほか深く肉をえぐっていた。
紺色の軍服に黒い染みを広げながら、左手で脇を押さえ、力が上手く入らぬ右手になんとか短剣を握り締めたまま立ち上がる。
上がる息をこらえ、声を絞り出した。
「君も……人間だったん……だろう?」
少女の瞳を捕らえたボルグの目から、一筋の涙が伝う。

