「……何のことだね?」
慌てることなく、ゆっくりと。
スイッチに伸ばしかけていた手を動かし、いつのまにか首筋に突きつけられていた銃口をそらすように押しやりながら椅子から立ち上がり。
声の主のほうを振り返る。
発砲することなく、だが押しやられた銃口はこちらに向けたまま……
険しい顔で自分を見おろす大柄な軍人。
「ずっと君の帰りを待っていたんだがね……これはどういう真似かね? ボルグ・ランドルフ君」
コーエンは少しだけ眉をひそめ、首を傾げてみせた。
「ルシフェルのデータはどうしたのかね?」
「消したさ」
「何故だね? 彼女は失敗などしなかっただろう? 充分な成果を上げてくれたはずだが……」
「銃口を向けられてるのに、随分と落ち着いてるもんだな? 戦場を知らん科学者とやらは、人が簡単に人を撃つわけがないとでも思ってるのか?」
ボルグはそう言いながら、指に力をこめる。
カチリ、と……重い静寂に包まれた部屋に、撃鉄を起こす音が響いた。

