少し長い前髪がかかる青い瞳が、また、不安定な色を浮かべている。
「失って苦しむなら……最初から無い方がいいのかもしれませんね」
アレックスの口から出た言葉に一瞬言葉がつまった。
「今の俺は……少なくとも、誰かが死んであんなふうに泣くことはない」
独り言のように紡がれたその言葉は、アレックスが自身とあの遺族を比べて感じたそのものであろうことは容易に理解できた。
確かに、今のアレックスに失って苦しいものはないのだろう。
だが……それは……
「そうだな」
再び覚えたこの青年への憐憫の情を振り払い、ボルグは苦笑気味に相槌をうった。
「こんな時代だ……俺も嫁も子供もいなくて良かったと思うよ」

