荷台に乗り込む兵士に続き、後方から近づいてくるルシフェルを、茫然とした思いで鏡越しに見つめながら……
騒ぐ胸の動悸を鎮めるだけで精一杯だった。
「何をしてる? 出発だ」
皆が乗り終えたのに動こうとしないトラックを不審に思った門兵が運転席の窓を叩く。
「ああ、すまない」
軍帽をつばを下げ、何事もなかったかのように口元に笑みを作りながら答え、ボルグはエンジンをかけた。
ゆっくりと開かれた裏門のゲートをくぐりぬけ、目的地へ向かい司令部を後にする。
ミラー越しに遠ざかる司令部の真っ白な壁は、曇った空の色を受けて輝きを無くし……鈍く、灰色に染まっているようにも見えた。
何故かいつも以上に冷たい印象で目に映る。
長年身を置いてきたエルカイザ軍の象徴。
自分自身の存在の象徴ともいうべき建物。
いつもそれを背に感じ、熱い思いを胸に戦場へ向かっていたはずなのに……
ミラーから目をそらし、ボルグは前方へと視線を定める。
(アレックス……)
昨日見送った青年の顔が脳裏に浮かんだ。

