結局、越智君は夜中に病室に来ることはなかった

手術の前にも姿を現すことが無く、あたしは麻酔で長い眠りについた

長い長い夢を見ていた気がする

どんな夢だったのか

それは覚えていないけれど、きっと幸せな夢だった気がするの

胸が温かくて、ふわふわしてた

「…みや……、涼宮?」

遠くから呼ばれて声が、意外と近くから聞こえているのだと気がついたとき、視界が真っ暗になった

「あたし…手術は?」

「成功したよ」

柔らかくて温かい言葉が、あたしの耳に入ってくる

真っ暗やみの中で、唯一聞こえてくる声の主があたしの手を握る感触があった

「せい…こう?」

「そうだよ。成功したんだ。16時間に及ぶ長い手術だったけど、涼宮は生きてる」

「あたし、生きてる?」

あたしは越智君に言われた言葉を繰り返した

「ああ、生きてる。手術が終わって最初に俺に会いたいって言っただろ?」

「うん…越智君にお願いしたよ。目を開けた時に越智君の姿があったら、あたし、生きてるって思えるから」

「だから涼宮は生きてるんだよ」

「ありがとう…越智君。覚えていてくれて」

「忘れるわけないだろ」

あたしは越智君の手を握りしめると、また長い眠りに落ちた