「俺さ・・・」


「ん?」


 すっかり落ち着いた私。今度は衣玖がしんみりとなって話し始めた。


「俺、実は目的もなく、ここにいるんだよね」


 と衣玖は苦笑しながらそう言った。私は、その顔を見て、すぐに何かあると悟ったが、とりあえず衣玖の話に耳を傾けた。


「なんか、何しても上手くいかなくってさ。そんな自分に嫌気がさしたっていうか・・・」


「うん」


「だから、今いる世界から逃げたんだ。何か、突拍子もないことをすれば、少しは自分が報われるような気がしたんだ」

 
 私は何も言わず、そのまま無言で聞いていた。衣玖は話を続ける。


「だけど、何も変わらなかった。まぁ、当たり前だけどな・・・」


 そう呟いた衣玖の横顔は、ずっと儚げに見えた。

 
 どうして衣玖はこんなにも笑顔が綺麗なんだろうと考えていたが、その理由〈ワケ〉がなんとなく分かった気がした。