Tirnis side
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「リュートのバカ────ッ!!」

 ウォルシード暦1299年1の月、大地の日。第一・七曜。
 新しい護衛騎士の叙任式から、すでに一週間の時が経っていた。

 魔族に呪われたと言われても、お城の中は平和そのもの。今日も今日とて空は青々と晴れわたっている。
 そんなおだやかな昼さがりの王宮で……

「かくれるなんて卑怯よ! こーんな広い王宮じゃ探してるうちに日が暮れちゃうじゃない!」

 私の心はこの空のようにおだやかではなかった。
 たとえるなら、(なまり)色の空に吹き荒れる風のように轟々(ごうごう)と暴れだしたい衝動に駆られていた。

 普段着の王子服に身をつつみ、愛用の剣をかまえ、獲物を狩る準備はいつでもOK!
 ……な状態なのに、肝心の獲物がいない。

 獲物というのは、たった今、盛大にののしったリュートという新しい護衛騎士のこと。彼の姿を今朝からずっと捜しているのに、とんと見あたらないのだ。

 なにも捕って喰おうというわけではない。
 これには海より深~い事情があった。

 時は、三日前までさかのぼる──