「これは、グランヴィオール伯爵(はくしゃく)

 威厳のある低い声が割って入ってきた。

「お祖父(じい)様!」

「ヴィクトル陛下(へいか)! ……お変わりなく」

 現在、女王の代わりを務める私の祖父だ。
 御歳58になるけれど、太陽のようにまぶしい金の髪は少しも色あせない。かつて民からあがめられた輝きと威厳はそのままに、重々しく、口を開いた。

「我が王女に対するお心遣い、感謝する」

「いいえ、出過ぎたことを申しました。あちらに人を待たせていますので私はこれにて」

 さすがのグランヴィオール伯も、お祖父様には頭が上がらないらしい。一礼しそそくさと逃げるようにこの場を離れた。

「フン、(たぬき)め。アレは己の爵位が“伯”なのが気にくわんのだ。レガートは真摯(しんし)な奴だがな。残念ながら次期女王の相手としては、身分不相応だ」

「お祖父様、助かりましたわ」

「ティアニス。空色の姫に相応(ふさわ)しい結婚相手はこのじじが決める。何も心配いらぬぞ」

「……ええ。わかっています」

 助かったけれど……お祖父様の言葉は、さらに心を曇らせた。

「どうした、ティア? 気分が優れぬか?」

「あ、いいえ! ……でも、息ぬきがてら少し風にあたりたいです」

「おお、そうか。式典と来賓の相手で気を張り詰めていたのだな。行ってくるがいい。風邪をひかぬようにな」

 いつもは威厳を保つためか気難しい表情を崩さないお祖父様も、孫の私には別だ。見えなくなるほど目をすぼめ、あたたかい言葉をかけてくれた。

「ええ。ありがとう、お祖父様」