「ティアニス王女殿下。ご機嫌麗しゅう」

「ごきげんよう、グランヴィオール伯」

 肉づきのいい高年の男性とあいさつを交わす。

「リディア女王陛下に似て、ますますお美しくなられましたな」

「まあ、お上手ですこと」

「いやいや。さぞや求婚者が引く手数多(あまた)しょう」

「! ……さあ、どうでしょうか」

 またその話か……と、内心でため息をつく。ここは適当にかわすしかない。

「ご謙遜(けんそん)を。御即位まで半年余り。そろそろ婚約者候補を絞る時期ではないですかな」

「女王になってもすぐ結婚するとは限りませんわ。未熟者の私には学ぶべきことがたくさんありますもの」

「ならばこそ、伴侶(はんりょ)という支えがご必要でしょう」

「そうでしょうか」

僭越(せんえつ)ながら空姫親衛隊としてお仕えしている私のせがれ、レガートなど、適任と思いますがいかがですかな?」

 確かにグランヴィオール伯の子息レガートとは、旧知の仲──幼なじみだ。

 騎士になったときから親衛隊の一人として私を見守り、今ではその副隊長を務めてくれている。マジメで誠実な人柄もよく知っていた。
 よく知っているからこそ、結婚相手として考えたことは一度もなかった。

「彼のきもちを無視するわけにはまいりませんので」

「慈愛の女神と謳われる王女様になんの不満がありましょう」

 笑みを絶やさずやんわりと断ってはみたものの、引きさがる気はないらしい。昔からこの人のねちっこいところが苦手だ。

 ……どうかえそう。