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 黄昏から藍色へ、空が装いを変えたころ。
 城の大聖堂で叙任式が行われた。

 式典を終えた後はお披露目パーティーとなる。新しく就任した騎士にとっては初めての社交の場だ。

 目がチカチカするほどきらびやかな装飾。
 城のコックがここぞとばかりに腕をふるった料理の品々。
 宴を優雅に彩る弦楽四重奏。
 着飾った見目麗しい貴婦人たちが殿方とダンスをしたり、談笑をしたり。
 お城のパーティーはいつも華やか。

 だけど……

「まあ、あれが英雄の再来とうわさの騎士様? なんて美青年なのかしら!」

「平民らしいぞ」

「あら、クレツェントの英雄も平民出身だったはずですわ」

「英雄の再来? 武勲(ぶくん)も立てぬうちから随分買いかぶっておりますな」

「見習い期間を飛び超えて任命されたのだから、実力があるんじゃないかしら?」

「しょせん、平民じゃ出世は望めないだろう」

「英雄カイザーはクレツェント騎士団長にまでなられたでしょう」

「カイザーは英雄と呼ばれたほどの人だ。そう簡単に……」

「今からお近づきになっておこうかしら」

「ステキよね。騎士というより異国の王子様のよう」

 華やかと言ってもそう大したものじゃない。単なるウワサ好きな貴族たちのしゃべり場だ。

(あの容姿じゃね……)

 彼を観察していると、みるみるうちに貴婦人たちに囲まれていく。見た目からして社交的じゃなさそうな彼に貴婦人の相手はかなり荷が重そう。ポーカーフェイスが崩れていくさまが遠目からでもハッキリ見えた。

 助け舟を出してあげたいところだけど、こちらもたくさんの来客を相手にしていてそれどころではない。