(リュート……)

 心の中で優しい名を呼ぶと、彼は芝生に座ったまま風にうながされてふりかえる。

 目と目が、あった、そのとき──

 脳裏に浮かんだのは今この光景とよく似たイメージ。
 古ぼけた絵画のようにセピア色で描かれたそれは瞬く間に消え失せた。

──刹那(せつな)(まぼろし)

(なに……? 今の……)

 いつか、どこかで、出逢ったような、なつかしさが胸にこみあげてくる。

「お前……」

 まだ夢の中に迷っていた心を、低いつぶやきが強制的に現実へ導いた。
 ちょうど逆光なのだろうか、まぶしげに手をかざしてこっちをうかがっている。
 その手にあるのは、一枚の緑。

「……草笛、上手ね!」

「ああ、聴いていたのか」

 手を叩いて正直に誉めたら、反応はずいぶんとそっけない。無表情でむくりと立ちあがってズボンに着いた草をはらい落とした。

「あ、ごめんなさい。盗み聞きして。別にゆっくり……」

「いや、もう戻る」

 とりつくしまもない感じで吐き捨てられたけれど、騎士宿舎に向かう足が私の前を通りすぎるところでピタリと止まる。

 なんだろう、と頭一つ上にある端正な顔を見あげて視線をあわせた。
 鋭い眼をやや見開きながら

「どうした?」

「え?」