どれくらいそうしていただろうか。

(…………?)

 ふいに、風に乗って聞こえてきた……かすかな振動。
 空耳かと思いながらも、ゆっくり、瞳を閉じる。
 全身を耳にするかのように、小さな小さな音を一つももらさないように、受けとめる。

 耳をくすぐるように……

────風がわたる。

 これは、空耳……ではない。
 確信を持って、見開いた。

 草笛だ。

 聴こえる。庭園の奥の奥の……さらに奥のほうから。
 消えいりそうな儚い音を頼りに進む。
 風に導かれるまま、一歩一歩……
 かすかに、でも確かに、耳によりそっていく。

 やがて、かよわくふるえるだけだった空気が、音符のつながりとしてはっきり浮かびあがってきた。

 ──ああ、知ってる。

 だれもが耳にした、なつかしい曲。
 子どものころの、たいせつな想い出。
 両親からの、いちばん初めの贈り物。

 それは草笛が奏でる、この国の『子守唄』。

 ──……風が奏でているみたい。どんな人が吹いてるの──……?

 庭園の最奥。植えこみをかきわけた先に、音色を奏でる風を見つけた。

「あ……」

 プツリ、と鳴りやんだ旋律(メロディ)