この庭園は美しい。

 けれど、お父様が亡くなってから活気が失われたような気がする。

『お花には人と同じように心があるんだよ。愛してあげれば必ずきれいに咲いてくれるんだ』

 お父様はよく語っていた。
 だとすれば……

 愛を育てるお父様と、
 その愛を受けるお母様、

 二人ともがこの庭園から姿を消してしまったことを花たちが哀しんでいるのかもしれない。
 泣くこともできず、ただひっそりと。


 この美しい景色は……なんて(かな)しいのだろう。


 いつの間にか、胸の中をうず巻く黒いきもちは消えていた。それなのに、さっきよりもっと、その場で崩れ落ちてしまいたくなった。

 くちびるを痛いくらいかみしめて、顔を上げる。

 空がなんだか目に()みるのは西日がまぶしいせいだ。
 景色がにじんで見えるのは今が黄昏時(たそがれどき)だからだ。

 ──きっと、そうだ。

 そんなことを思いながら、にらみつけるように空をただ見上げていた。