「まあ、予想していたことだがな」

 鍛練場を出て、一人嘆息した。

 この国は平民でも騎士になれる制度を(もう)けてはいるが、その数は微々たるものだ。また、見習い期間を飛び超えて騎士になるのはさらに(まれ)なことだ。

 前例は、伝説の騎士・英雄カイザーだけだ。

 やっかみを受けるには充分すぎる。

(“英雄の再来”か)

 フェンネルが話していた『噂』とは、恐らくこのことだろう。いったい誰が言い出したのか、全くもって迷惑千万な噂を流してくれたものだ。

 雰囲気的にあの場で居座って鍛練を行えるような状況ではなかった。鍛練場は他にもいくつかあるが、行く先々で難癖(なんくせ)をつけられてはたまったものではない。

 俺は、どこか独りになれる場所を探して城内を彷徨(さまよ)い歩くはめになった……。

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